どっと疲れが、、、
- 作者: 仲野武志
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2007/04
- メディア: 単行本
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悩ましさ・その一 「加筆・修正」と言うよりは、「書き直し」じゃあ〜りませんか?
誤解を招きそうなので、いきなり付け加えますが、書き直しが悪いといっているわけではないんです。研究の進展によって自らの見解が変わる・ないし変わらないけれども理解をさせやすくするために異なる構成・表現を選択する、ということは、あっても良いことだと思うし、そのような状況になれば書籍化と言うかたちで書き直す機会を与えられたときに積極的にそれにそって書き直す、というのは悪いことだとは思いません(むしろそうすべきだと思っています)。
しかし、以前に、論文として公表しているものを書き直すわけです。原論文は、助手論文を法学協会雑誌で公表したものです*1。まごうことなき「公表」でしょう。そんなかたちで公表をした論文の構成・表現に大幅に手を加えて、改めて書籍化し公表したわけです。となれば、「どこをどのように変えたのか」、そして「なぜそのように変えたのか」ということについての「解題」を「はしがき」でも「あとがき」でもよいので明示することは、研究者としての義務だと思うのです。例えば、終章に入れていた従来の議論の検討を序章に持っていった理由であるとか、あるいは原論文では「集合利益」といっていた利益と、この本で「凝集利益」と名づけられた利益との関係はどういうものなのか、同じならばなぜ名前を変えたのか、違う内容を持つ概念ならば何が違うのか*2。これらは、読み手の側が読み取ろうと努力しなければならない性質のものではないでしょう*3。
悩ましさ・その二 まんなかの比較法の部分の意味は何?
これは、原論文を読んだときから感じていたことで、「公表されていない最後の部分に反映されているんだろうなぁ」と思っていたものなのですが、本書「はしがき」鄱頁には、
本書の終章では、我が国において‘主観的公権の体系’と対峙する思想的系譜をたどったのち、それを実定行政法実体法に則して展開することを試みている。それは、第三章までの比較法研究の成果を自己目的的に日本法に当てはめるのではなく、各章で検討された理論枠組みを一旦‘解体修理’し、原形をとどめぬまでに醸成したものである。その結果、終章は相対的に独立性の高いものとなった。このため、現行法制の具体的解釈論に関心をお持ちの読者にとっては、同章から繙(ひもと…筆者注)かれるのも一案といえるかもしれない。しかしながら、同章における筆者固有の視座は、第三章までの学説史的分析を経ずしては決して着想しえなかったものである。
と書いてありました。
これまた衝撃でして。外国法の紹介の部分と日本法への示唆がちゃんと繋がっているかどうかを厳しくご指導をいただいて、書いた原稿をメイルに添付して、文章が全部蛍光黄色になって帰ってくる、という交換日記をなきながらした人間からすると、腰が砕けてしまって。「解体修理」にしろ「原形をとどめぬまでに醸成」したにしろ、それを行う経過を文章化したものこそが比較法という手法をとる論文の肝なのではないかと思うのです。また、「自己目的的に日本法にあてはめる」ことと「解体修理」とか「原形をとどめぬまでの醸成」というのは何が違うのか、いまいち理解できません。
この文章を読むかぎり、結局、第一章から第三章の比較法の部分は、「発見のプロセス」であって、「正当化のプロセス」ではないのだということになるのでしょう。だとすれば、本書の結論に対して、第一章から第三章の持つ意味は、一体なんなのでしょうか。
ということで
本書の原論文については、自分の専門分野ではない、ということもあって相当に時間をかけて読んで、検討をしたつもりです。でもしょせん「つもり」です。当然、自分なりの理解しかできていないので、それが著者の意図と外れて間違っているかもしれない、だから完結したものをちゃんと読んでもう一度考え直さなければいけない、と思っていたので、本当ならば、時間をかけて読んだうえで、自分の論文の書き直しのときに反映させるべきだ、と思ってはいます。思ってはいるのですが、こんな悩ましさのおかげでやる気が、、、もしかすると、内容は検討するけれども、このエントリで書いたような内容をどこかに入れて、結論に結びつける考察の対象から外す、と言うようなことにするかもしれません。
で、こんなエントリを挙げた理由は、研究者が論文を発表する意味ってなんなんですかねぇ、ということがどうもいまいちわからんようになってしまったので、自分の考えをまとめたかった、ということです。でも、まとまりません。自分が現状で研究できていないだけに余計にそんなことを思ったのだとおもいます。う〜ん、なにか私が間違っているのでしょうか。なにせよ、こんなエントリで不快に思われる方がいたら申し訳ありませんでした。