覚書ふたたび→貸金業法。

以下のエントリの内容については、判例・文献を調べずに思いつきで書いているので間違いの存在する可能性、そして変更を加える可能性があります。

http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060113AT1G1303213012006.html
利息制限法の超過金利、支払いは原則無効・最高裁が初判断
 利息制限法の上限金利を超える高金利で自営業者に融資したアイフル子会社の商工ローン、シティズ(京都市)が、返済期日を過ぎた場合に残額の一括返済を求められる特約に基づき自営業者と連帯保証人に返済を求めた訴訟の上告審判決が13日、最高裁第2小法廷(中川了滋裁判長)であった。同小法廷は「上限を超える金利について、事実上強制されて支払った場合、特段の事情がない限り、無効」とする初判断を示した。
 そのうえで、自営業者側に一括返済を命じた2審・広島高裁松江支部判決を破棄し、「特段の事情」が存在したかどうかについて、さらに審理を尽くす必要があるとして、同高裁に差し戻した。
 消費者金融会社などの多くは、ローンの分割返済契約にこの特約を設けており、一括返済を求められた借り手が返済に窮するなどトラブルが多発している。上限金利を超える金利の受け取りに高いハードルを課した司法判断は、借り手保護に寄与しそうだ。

判決文はこれ
以前のこのエントリで、書面交付の要件のところを厳格に解釈して救済の可能性を広げていくという手法は、いずれ限界にぶつかるのではないか、貸金業法43条1項の債務者の支払の任意性についての1990(平成2)年2月20日この判決を見直すという流れにならないのだろうか、なんてことを書いたわけですが、へなちょこな私が考えるようなことは、やっぱり誰もが考えていることだったということで。
支払いの任意性の部分にだけ着目すると、

  1. 貸金業法43条1項の規定の適用要件は、その趣旨・目的から厳格に解する必要がある。
  2. 「債務者の支払の任意性」について1990(平成2)年2月20日の枠組は維持して、超過部分が無効であるとの認識までを求めない。
  3. しかし、債務者が、事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には、制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできないので、法43条1項の規定の適用要件を欠く。

という一般論を示し、さらに

  1. 期限の利益喪失特約は、残元本全額及び経過利息の一括支払義務&残元本全額に対する遅延損害金の支払義務を債務者に負わせることになり、このような不利益を避けるために債務者は利息制限法1条1項の制限超過部分の支払を強制されることになる。
  2. このような結果は、利息制限法1条1項の趣旨に反して容認することができないので、期限の利益喪失特約のうち,債務者が支払期日に制限超過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,同項の趣旨に反して無効。

として期限の利益喪失特約の一部無効を示したうえで、

  1. 期限の利益喪失特約は、一部無効であっても、この特約の存在は、通常、債務者に対し、支払期日に約定の元本と共に制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り、期限の利益を喪失し、残元本全額を直ちに一括して支払い、これに対する遅延損害金を支払うべき義務を負うことになるとの誤解を与える。
  2. その結果、一部無効な特約でも、このような不利益を回避するために制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるものというべき。
  3. したがって、本件期限の利益喪失特約の下で、債務者が、利息として、利息の制限額を超える額の金銭を支払った場合には、上記のような誤解が生じなかった といえるような特段の事情のない限り、債務者が自己の自由な意思によって制限超過部分を支払ったものということはできない。

との結論を導いているという流れだと理解しました。

この判決のすごいな、と思うところは、期限の利益喪失特約の存在そのものによって超過部分の支払の強制される、だから特段の事情がなければ任意性は認められないんだ、としているところ。この種の契約では、期限の利益の喪失特約を入れるのが通常であろうし、この特約を外すことによる不利益を考えると将来的に契約からこの特約を外すという対応は採られにくいのではないか、と思う。ということで、ほとんどの契約がこの枠組で処理されうることになるのではないか。しかも、「特約の存在」という客観的なところに引っ掛けて貸金業法43条1項の適用を回避できる、という結論を導いている。主観的認識に直接着目するかたちで判例変更するよりも、貸金業法43条1項の持つ意味を減殺するパワーが強いように思う*1

今後の議論の中で注目したい点は次の三つ。
一つは、「誤解が生じなかったといえるような特段の事情」がどのように解されるか、というところ。これが広く緩く認められるならば、貸金業法43条1項に生き延びる途が開かれてしまうことになるような気がする。
もう一つは、特約を無効だという必要があったのかどうか、というところ。理由の途中で、特約の存在そのものから「制限超過部分の支払の強制」を引っ張ってあったのだから、特約の有効無効は判断せずに、それだけで支払いの任意性を否定してしまうという道筋もあったと思う*2。特約を一部無効としたからこそ、「誤解が生じなかったといえるような特段の事情の不存在」という要件が必要になったわけで。この特約が一部無効との判断が以後にでたとしてもこの枠組を維持できるように布石をうったということなのか、本件を越えた判例理論の形成を意識したのか、それともだめな私の思いつかないところでちゃんと理由があるのか。
最後は、この期限の利益喪失特約の一部無効の法理論的根拠。公序論とか、典型契約論とか、約款論とかそういった契約の基礎理論が絡んでこないのだろうか。

*1:枠組を維持しているから判例変更じゃない、といえるし。

*2:ということで、この「特約の一部無効」の部分は判例としての意味をもつのだろうか、という疑問も出てきたり出てこなかったり。