伝えるということはなんにせよ難しいわけで。

父と娘の法入門 (岩波ジュニア新書 (519))

父と娘の法入門 (岩波ジュニア新書 (519))

法律を学んだことのない人が、あるいは学び始めた人が法律について持つ疑問にはいくつもあるのだろうが、そのうちの一つには「当たり前のことなのになんでそんな複雑な議論をするの?」という疑問があるのだと思う*1。これに対して、小難しい理論を並べて相手を丸め込むのではない方法で、こうする必要性を相手に納得してもらうように説明するためにはかなりいろいろ考えないといけない。
そもそも、自分がこの研究者の世界に入ろうと思ったのは、法律学の議論に惹かれたから、なんてことはまるでなく、法律の世界では当たり前とされていることに対して「なんでなの?」と疑問をもったけれどもそれに対して納得のできる明確な答えを見つけられなかったから、というものだった。ということで、やらせてもらえるのであれば、いつかはこの本のような仕事をやってみたいと思っていた。けれど、この本を読んでみてとてもそんな仕事のできる能力のないことを実感。複雑なことを余すところなく易しい表現で伝えるためには、複雑なことを複雑なまま表現する(あるいはしたふりをする)よりも圧倒的に幅広い知識と圧倒的に深い理解とが必要になるわけで。しかも、理論の側から質問を設定するのではなく日常生活の側から質問を設定したうえで理論の側から易しく回答をしめさなければならないわけで。この本は大村敦志先生だからこそ書けたのだろうな。はー、道のりは遠い。

*1:民法555条を読んだ後、学生に「これってよくよく読めば日常普通に行っている買い物のことだよね。こんな普通に行っていることをこんな風にややこしく書いているのは法律の専門家が自分の権威を守るためにやっているんだと思う人は手を挙げて」と聞くと結構な数の手が挙がることがある。