なれないことをするとやけどする気が、、、(追記あり)

考えたきっかけというかなんというか

現在、脳内リハビリ中*1ということもあって、仕事中でないときに日常のニュースなんかを法理論的に考える、ということはしないようにしているんですが。しかし、さすがにマンション等の耐震構造の欠陥については、マンションの購入者が誰に責任を追及できるのかということについて、ついつい考えてしまいました*2。いい加減なものですが、せっかく考えたので覚書として残して、あわよくばご覧になっている方から間違いを指摘していただいて、さらにはご批判を仰げればなと思っているしだいです。

従来の議論、あるいはその延長線で論じられそうな部分*3

  1. 売主or請負主に対して:契約に基づいた瑕疵担保責任民法宅建業法、住宅品質確保促進法)。
  2. 建築士不法行為責任。建築士が書類を偽造した場合については異論の出るところではないとの見解がある。また、建築士の名義貸しについてのH15年の最高裁判決の理由中に示されている最高裁の見解(特に要旨1)からすれば、偽造の場合にも不法行為責任が認められる可能性が高いのではないかと*4
  3. 建築業者:不法行為責任の追及は純粋な論理からいくと可能性はないわけじゃない気がするけれども、触れている文献が見つからず。継続調査(時間があれば、ってないです)。

従来の議論では論じられていない(気がするのは勉強不足のせいかもしれない)部分

  1. 民間の建築確認検査機関に対して:1999年の建築基準法の改正で導入された制度だそうです*5。当然、不法行為でいくことになると思うのですが、そもそも購入者に対する民間の建築確認検査機関の不法行為責任が民法上認められるのか、という点のほかに、行政法との関係で引っかかる点があります。それは、建築主事(ですよね、建築確認を行うのは?)との関係です。例えば、今回の事例が建築主事であった場合、建築主事は公務員なわけで、国家賠償法1条が持ち出されてくることになると思うのですが、どうも行政法では、公務員個人の責任は追求されないというのが判例だということです*6。となると、民法理論で検査機関の不法行為責任が認められた場合、同じことをやっているのに、公務員であれば責任は負わないが、私人なら責任を負う、という状況が生み出されてしまいそうです。この違いの妥当性の検証と、その検証の帰結を基礎づける理屈が必要になると思います。
  2. 地方公共団体に対して:これは、id:paco_qさんの記事中*7に示されているこの最高裁判決*8をみて、民間の建築確認検査機関の不法行為について、国家賠償法に基づいて地方公共団体が責任を負う可能性があるのだとはじめて知りました。もちろん民間の建築確認検査機関の不法行為責任自体を構成できるかにかかっているわけですが、購入者の救済という面から行くと、これが認められれば結構大きいのではないか、と思います。ただ、購入者との関係ではないのですが、ここでも公務員と私人の違いが響きそうな気がします。というのも、国家賠償法1条2項は、国又は地方公共団体の公務員個人への求償権の認められる場合を「故意又は重大な過失」に限定しているわけですが、これを民間の建築確認検査機関にも適用するのか、ということが問題となりそうだからです。民間の建築確認検査機関は株式会社だそうです*9。ということは、民間の建築確認検査機関は営利企業ということになるわけで。となれば、軽過失の場合には地方公共団体が求償権をもてないということは、軽過失の不法行為を行った営利企業の賠償金の肩代わりを税金で行う、ということを意味することになります。この帰結は妥当ではないと言えそうです。で、この2項の根拠は「軽過失についてまで公務員の個人責任を問うと、公務の遂行が消極化し事なかれ主義に陥るおそれがあるため」だそうです*10。この2項の立法趣旨は民間の建築確認検査機関にはあてはまらないように思えます(検証が必要ですが)。そうだとしても、軽過失についても求償権が発生する、ということを簡単にいえるのかどうか。明文の規定を吹っ飛ばすわけですからしっかりとした考察が必要になるのでしょう。

思った以上に長くなってしまいました。反省しています。

ということで、かなり大雑把な考えであることを実感しておりますが、それでもあえて突き進めば、理論的には、民間の建築確認検査機関の責任に関して、行政法との関係も踏まえて民法理論上どのように捉えるのか、というのが難しい問題になる気がしています。ぬえ的存在というのかなんというのか。しかし、今後、規制緩和の流れのなかでこんな存在が増えていくということも考えられるのならば、民法学と行政法学が協働してある程度の理論的な対応を考えておかなければならないのではないか、というのでは結論にもなんにもなっていないのですがこのエントリの一応の結論です。そもそもこんなこと問題にならない、あるいはこんなこと既に議論されていて、知らないのは勉強不足の私だけ、なんて状況だったらかなり恥ずかしいのですが。

(追記)やはりやけどをしました。国賠1条は、「国又は地方公共団体」ではなく「国又は公共団体」です。そして、この最高裁判決も訴えの変更についての判例で実体法上の判断とはいえないということ*11判例の読み方を勉強しなおして出直します。研究者モドキすら失格です。。。

*1:だけれども結局なんだかんだとやることがあってなかなかリハビリになってないんだよなぁ、、、

*2:あまりに腹が立ったので。

*3:以下の記述は、中野哲弘=安藤一郎『住宅紛争関連法』(青林書院、2005年)と鎌田薫他『民事法Ⅲ』(日本評論社、2005年)の瑕疵担保請求(潮見佳男先生執筆)をもとにしています。

*4:これは私の印象です。それにしてもこのURLの長さはいやがらせですか?

*5:http://d.hatena.ne.jp/paco_q/20051119/1132350903

*6:原田尚彦『行政法要論(全訂第六版)』291頁(2005年)

*7:http://d.hatena.ne.jp/paco_q/20051119/1132350903の脚注3

*8:だから長いって、URLが。

*9:http://d.hatena.ne.jp/paco_q/20051119/1132350903

*10:前掲原田・291頁

*11:http://d.hatena.ne.jp/paco_q/20051123/1132698353#c